小さくも大きな一歩の話

私がジェラート屋を始められたのは、たくさんの人からの後押しと支えがあったからだ。
まだ会社員をしている頃、ジェラート屋をやってみたいことを何人に話していたかは分からない。
そして、その中の何人が本気で話を聞いてくれていたかも分からない。
なにより、自分が一番自分を疑っていた気もする。
まったくの畑違いのことをやりたいと思った時、誰もが何から始めれば良いか分からない。
自分も同じく分からないことだらけだったが、分からないなりに”事業計画”みたいな資料を作っていた。
自分の頭の中のことを言語化する作業は、楽しかったが反面、現実的なことが分からず、結構辛くなった。
ある時、自分のやりたいこと(もちろんジェラート屋のこと)を話した相手に「それ、本当にジェラート屋じゃなきゃダメなの?カフェとか別のことでもそういう店はできるんじゃない?」と言われたことがあった。
ジェラートの知識や経験がないうえ、アイスクリームがすごく好きなわけでもなかったので、なかなか耳が痛い一言だった。
そんなこんなで、一向に進んでいなかった起業の夢だったが、2015年頃にゆっくり動き出した。
ある日、何気なくGoogleで「ジェラート屋さんをやるには」と検索すると、あるブログにヒットした。
東京・阿佐ヶ谷の人気ジェラート店の店主が書いているブログだった。
ブログの内容や文脈から「もしかしてこの人なら私の話を聞いてくれるかもしれない」と思った。
それからほかのブログ記事も読み、お店にも足を運び(結局、度胸がなく声もかけれなかった)、次はメールでアポを取ってみようと決めていた。
しかし日々の生活に追われ、連絡せずにいつの間にか数か月が経っていた。
そんな時、当時仕事のことや将来のこと等、色々と相談していた同僚が、私の状況を察し、このお店のジェラートをオンラインショップから注文しプレゼントしてくれた。
中にはジェラートと一緒に「素敵な一年になりますように…」とメッセージが添えられていた。
この時、ようやくグズグズしていた自分を恥じ、1年後の師匠へメールを送ることができた。

ひとつのメールを送ることは、人によっては容易いことかもしれないけれど、自分にとっては大きな出来事であり、ひとりではその一歩が出なかった。
同僚が背中を押してくれたおかげで送ったメールは、すぐに返信があり、そこには「メールを送って本当によかった」と思えることが書いてあった。
何かを始める時には、勢いや瞬発力が必要な場合もあるけれど、慎重に進むことで、色々なことに敏感になり、自分にとって大きな挑戦をする際のとても大切な感覚が身についたと思っている。
人の気持ちや立場になって考えることは難しく、良かれと思ってやったことは大概お節介なことが多い気がするけれど、少なくとも自分がしてもらってよかったなと思うことを、これから出来れば良いなと思う。
それがお世話になった人たちへの感謝を伝える方法だと思うから…。